春に旬を迎える食材といえば、筍(タケノコ)です。私たちが筍と呼ぶのは、「孟宗竹(もうそうちく)」という品種。生産量が日本一の福岡県をはじめ、九州全域が主な生産地で、2月の下旬ごろから店頭でちらほらその姿を見るようになり、3〜4月に旬を迎えます。
今回の返礼品「むかし竹の子」は、一見、ただの筍の水煮のようですが、実は筍の常識を覆す逸品。開発当初は”常識外れ”な商品に周囲は半信半疑だったと言いますが、その味は福岡県内の料亭はもちろん、都内の有名シェフらからも注文が入る格別な味として知られるようになりました。そんな「むかし竹の子」の魅力をたっぷりとご紹介します。
「むかし竹の子」を製造・販売するのは、福岡県八女市にある大一食品株式会社。八女市では、江戸時代中期から筍の栽培がはじまりました。現在、その生産高は日本一を誇り、市内の道の駅では春先になるとエグミが少なく、みずみずしい筍がズラリと並びます。取材へ向かう道中も竹林をあちこちで見かけることができました。
この日迎えてくれたのは、社長の松﨑大成(まつざき たいせい)さん。大一食品工業は昭和6年、松﨑さんの祖父が入浴剤を製造したことがはじまりで、その後、缶詰や食品加工なども手がけるようになりました。現在は、食品加工のほか、高品質のアロマオイル(エッセンシャルオイル)の蒸留にも取り組むなど、体にも心にもうれしい商品を自社で製造・販売しています。そんな松﨑さんが、子どもも安心して食べられるようにと無添加にこだわって生まれたのが「むかし竹の子」です。
「むかし竹の子」は、八女の名産である筍の水煮です。よくある筍の水煮に見えますが、違うのは原料となる筍。「むかし竹の子」に使われるのは、なんと2mにまで伸びた筍なのです。普通、筍というと土から頭を出すか、出さないかの若い筍をクワで掘って収穫するのが一般的。伸びた筍と聞いて「なんだか硬くておいしくなさそう」と思わず本音が漏れてしまいましたが、「2mくらいに伸びた筍の穂先、40cmくらいが実はおいしいんですよ」と松﨑さんは話します。
「筍は、土から穂先が出るまでに半年かかるのですが、土から出たら2カ月で18mにまで伸びて竹になるんです。ほかの植物と比べても、成長スピードがとても早い。高さが2mを超えると、根元に近い部分ほど硬くなってしまいます。でも、穂先の部分は成長するために、常に細胞分裂を繰り返しているので柔らかいんです。そんな穂先に集中して含まれているのが、成長ホルモンでもあり、うま味成分でもあるアミノ酸。むかし竹の子は、そんなうま味成分たっぷりの穂先を使っているからおいしいんです」
とはいえ、「伸びた竹の子はおいしくない」というのが一般的な意見。製造を始めた20年以上前は、周囲からも「そんな部分を食べるのは無理では」という声が多くあったといいます。しかし、「成長が早い筍の穂先は、細胞分裂のおかげで柔らかく、うま味も多いのでは」と仮説を立てた松﨑さん。実際に加工した筍を味わってみると、しっかりとしたうま味に加えて、程よい繊維質のおかげでシャキッとした歯応えがあり評判に。福岡県内はもちろん、東京のシェフの間でもクチコミで話題となる逸品に成長したのです。
「筍って、掘るのは意外と重労働。特に筍の生産者は年配の方が多いから、大変な作業なんです。でも伸びた筍の穂先を着るなら、かがんだりしなくていいから作業も楽。年配の生産者の皆さんが作業しやすい環境を作れたことも、むかし竹の子の魅力のひとつですね」
うま味たっぷりの穂先ですが、よりおいしく食べるために収穫して1日以内に天然水を使ってボイルします。これは、時間が経つにつれ切り口から水分が蒸発して、えぐみ成分が濃縮されてしまうのを防ぐため。皮ごと蒸気でボイルし、手作業で皮を剥いてカットしたら、缶に詰めてさらに100℃で2時間加熱し完成します。筍の水煮では、保存のためにクエン酸を使用することが多いのですが、「むかし竹の子」は、筍が本来持つ乳酸菌を利用することで、添加物なしでも保存が可能になりました。
「無添加の水煮は、酸味がないため、筍本来の味が楽しめます。自然の味を楽しむなら、生の筍を湯がいてもいいけれど、子育て中の世代は忙しくて難しいですよね。むかし竹の子は、無添加でお子さんが食べるのにぴったり。気軽に食卓に取り入れてほしいです」と松﨑さん。穂先に近い部分はスライスして筍ごはんに、それ以外は、天ぷらや炒め物、中華料理などにと、さまざまな調理法で味わえます。
限られた期間にのみ収穫できる筍を使う「むかし竹の子」はとても希少なもの。毎年、収穫時期の4月末〜5月上旬は、フル稼働で製造しますが、次のシーズンを迎える前に販売終了となってしまいます。名店のシェフの間でも高く評価される貴重なその味をぜひ、ご家庭で楽しんでみませんか。
愛媛県出身、広島、東京での暮らしを経て、福岡で暮らすフリー編集ライターです。各地を転々としたおかげで、ローカルのおいしいモノ・楽しいコトに興味深々!食いしん坊代表として、特にご当地グルメと地酒は無限の可能性を秘めていると感じます(笑)。首都圏と地方を結ぶ架け橋となるような仕事をしたいと奮闘中です。
八女福島の白壁の街並みは、散策にぴったり。同じ福島地区で9月に開催されるカラクリ人形芝居「灯籠人形公演」はとても美しく、見応えたっぷりです。