南国の海のように透き通ったマリンブルーの海岸と、広大な自然が山側に広がる京丹後市。京都府の最北端、日本海にせり出した丹後半島に位置する町です。連日の猛暑が続く夏と、豪雪地帯となる冬。豊かでもあり厳しくもある自然と共に生きてきた地域でもあります。
古くは弥生時代から人々が定住していたことも分かっていて、日本最古とされる高地性集落跡地「扇谷遺跡」があるなど、日本海側における文化の一大中心地であったとされています。また大陸から伝わった技術も多く、諸説ある日本の稲作の発祥の地の一つです。
そんな京丹後の地で、1999年に創業したのが「自然耕房あおき」。その17年後、亡くなった先代の想いを引き継ぎ、経営の勉強会のグループだった、6人の女性が手を取り合って農場を再始動しました。創業以来、変わらず農薬・化学肥料は使わずにミミズや微生物などが活発に活動できる土づくりを行い、年間200品種以上の野菜をオーガニックで育てています。
土作りや農法だけではなく、野菜のおいしさに一役買っているのが京丹後の気候です。日中の寒暖差が、野菜のうま味を凝縮。特に、晩秋から冬にかけて吹く季節風「うらにし」の影響で、雨や雪など一日の天候や気温がころころと変わります。
豊かであり厳しくもある自然環境の中で栽培されたトマトのジュースは、一口飲むだけで思わず笑みがこぼれてしまうほど、驚きがあります。その秘密は3つあります。一つ目は100%トマト果汁であること、二つ目は5種類のトマトをブレンドしていること、3つ目はトマトの仕上がりによって毎年変わるブレンド比率です。トマトのみを使用したジュースの味わいは、サラッとした印象のあと、トマトの自然で優しい酸味が続き、奥深い甘みが口の中に残り、飲み心地のよいトマトジュースです。
ブレンドの比率を固定せず、その年の収量や出来具合によって変化を続けるトマトジュース。毎年仕上がりが異なる変化を楽しみ、土地の風土を味わうワインとも、どこか似ているように感じます。ここで使っているトマトは計5種類。
甘味と酸味がミックスした、さっぱりしたおいしさの「メニーナ」。強い甘味と、加熱すると濃厚な旨味がでる「アイコ」。フルーツのようなさわやかな香りと味がある「アイコオレンジ」と「アイコイエロー」。固定種のミニトマトである「ステラミニ」は、糖度が8度以上もあり、甘味が強く濃い味わいが特徴です。総じて、甘味のある品種を使っていることがわかります。
ジュースにするトマトの収穫のポイントは、木で完熟させること。甘味が増加、色付きもよくなるため、よりトマトのおいしさを引き出したジュースができるそうです。トマトは、水分を制限することでより高濃度な果汁が生まれるため、あえてハウスの中で栽培しています。
日本の多くの生産者が単一品目の栽培をしている中、自然耕房あおきでは、年間200種類もの野菜を栽培しています。「それが実現しているのは、先代の土作りの土台があり、6人の発起人メンバーがそれぞれ得意なことを生かしてきたから」と代表の青木さんは話します。
「例えばフラワーショップで働いていたスタッフは、エディブルフラワーを栽培して販売につなげたり、アレンジメントも得意なため、ギフトや野菜の配送方法にも気をかけたりしています。さらに、一緒に植えると相乗効果で虫除けなどになるコンパニオンプランツの手法を利用し、野菜の隣で花を栽培し、農作業の効率化や収量の増加にもつなげています。他にも料理が得意な人、平和学の博士であるスタッフは地域の人々、環境の循環を考えたビジョンを持ち、農業を中心とした循環型のコミュニティーを創造しています。
植物や大地の力を生かし、相乗効果を生み出し、循環する畑を作っていく。その相乗効果は、人と人の間でも生み出していく。それによって生まれた野菜は自然体で、本来の味とうま味を持ち、パワーにあふれています。人々のコミュニティにとっても、無理なく心地よく循環することこそがサステナブルというわけです。
寒暖差の激しい京丹後の地形を生かしながら、農薬・化学肥料を使用せず、自然の循環の中で栽培した5種のトマト。毎年の出来に合わせてブレンドの比率を変化させて出来上がる、サラッとした飲みごたえの「奥深い甘さ」と「複雑さ」のあるトマトジュースがあります。
6人の女性がそれぞれの強みを生かし、自然と共に作り上げた結晶ともいえるトマトジュース。そこには、農園の運営で最も大切にしている、自然と身体を守るという想いが込められています。
畑も働き手も無理なくよりサステナブルにしていくことが、自然と身体にとっても良い食を実現する。そんな強いメッセージを感じました。厳しい環境と向き合いながら、素材と個々人の強みが生み出した、そんなトマトジュースでもあります。