一年以上もの時間をかけて、丁寧に醸造された「心の酢」。
お米の風味とまろやかな舌触りが
「酸っぱいだけ」と思われる、お酢への先入観を変えてくれます。
「戸塚醸造店」では、昔ながらの方法で、
栄養が詰まった、風味豊かなお酢を手づくりしてきました。
「舌に残る違和感が必ずあるんですよ。科学的なものって」
そう語る「戸塚醸造店」の戸塚治夫(とつかはるお)さんのお酢は、完全無添加。
原料には、山形県の太ももの会さんが育てる有機栽培米を、
水は湧水を使っています。
特に大事にしているのは、
濾過材を使わないこと。
濾過材は、悪い菌や雑味を取りのぞくために使われますが、
旨味や栄養も、一緒に取り去ってしまう、デメリットがあります。
表示義務がないので、
私たちがラベルで見分けるのは難しいですが、
一口含んだとき、食べてみれば違いがわかると確信できました。
「心の酢」は、お米の香りと味がするのです。
「昔のやり方と同じで、お米からつくったお酒に菌を入れる。
すると、表面に膜がはって
その菌膜が液中のアルコールを、ゆっくり酢に変えていくんです」
とつくりかたを、身振り手振りで、丁寧に教えてくれる戸塚さん。
菌とはアルコールをお酢に変える、酢酸菌のこと。
菌の力だけで、ゆっくりとアルコールをお酢に変えるこの方法は、
全国で10数軒しか実践していないと言われる、
静置発酵法、というものです。
戸塚醸造店では、すべてが手作業。
静置発酵法に至るまでの、麹づくりや、アルコールづくりをふくめると、
一本の心の酢ができあがるまでには
一年以上もの時間が費やされています。
自然の法則にしたがって、丁寧につくるからこそ、
原料となる、あの美味しいお米の風味が
そのまま残ってくれるのです。
濾過材を使えば、この風味は消えてしまいます。
栄養と、個性豊かな風味を大切にするために、
ゆっくり、丁寧なものづくりをする、
これこそ、戸塚醸造店のお酢が美味しい理由です。
戸塚醸造店では、何十年、何百年と前につくられた甕を使って、
お酢造りをしています。
目に見えない気泡がたくさんある甕は
良い菌を住まわせるにはうってつけ。
工場を木造建てにしているのも、
菌の居心地を良くするためです。
さらに、悪い菌が住み着かないように、
木材は全て新品にこだわり、
工場の完成と同時に、良い菌を住まわせるため、
心の酢を噴霧器にかけたのだとか。
お酢造りは、良い菌を住まわせることからはじまっていたのです。
酢酸菌は、風土の特徴によって
地域ごとに、異なる菌が生息していると言われます。
つまり、戸塚醸造店で生きる酢酸菌も、この土地特有の菌。
一度でも絶えてしまうと、
もう二度と、同じ心の酢を造ることはできないのです。
工場の造りも、道具の選び方についても、
どこまでも菌のことを一番に考える戸塚さん。
その姿から、菌にも、お酢にも、
まっすぐな思いでぶつかっていることが伝わってきました。
お酢と真剣に向き合う戸塚さんの心がこもった心の酢は
この土地でしかつくれない、
戸塚さんにしかつくれない、
世界でたったひとつのお酢なのです。