従来の伝統工芸品に留まらず、現代の暮らしにマッチする製品作りに取り組み、多数のグッドデザイン賞を受賞。
製造に12年以上従事している技術者で、高度な技術・技法を保持する職人は「伝統工芸士」の資格試験を受ける権利を与えられ、合格したものが認定されます。大館工芸社では、現在5名が伝統工芸士に認定されています。
また、6年以上の実務経験で基本的な技術・技法を保持するものに認定される「秋田県みらいの工芸士」が5名おり、「伝統工芸士」と合わせて大館市内では最多の職人が在籍してます。
大館市ふるさと納税アンバサダーの真田かずみさんが、曲げわっぱ製作体験と代表取締役の三ツ倉和雄さんにお話を伺います。
大館市ふるさと納税アンバサダーの真田かずみさんが「七寸盆」の製作に挑戦!
指導してくださるのは、曲げわっぱ作り60年以上の大ベテラン佐々木悌治さん。
はじめに、お盆の縁となる輪の内側に薄く接着剤を塗っていきます。
接着剤が一周したら、底板をギュッとはめ込み、木づちでトントンと叩いていきます。
底板がしっかりとはまったら、底輪を同じように木づちでトントン叩いてはめていきます。
「真上からしっかりと叩いた時、いい音がしますよ」と佐々木さんがアドバイス。
次に、はみ出した接着剤を、濡らした布で丁寧に拭き取っていきます。
木が接着剤の水分を吸い取って、どんどん接着剤が硬くなっていくため、意外と難しい作業です。
「大変だったら手伝うから遠慮なく言って。私、お手伝い大好きだから」
と優しく見守る佐々木さんに手ほどきを受け、接着剤をキレイに拭き取ったら完成です。
1959年、地元大館の豊かな天然秋田杉を活用するため故・堺谷哲郎氏が創業。
「お客様に喜ばれる良いものを作る」をモットーに、曲げわっぱや秋田杉工芸品の製造を始めました。
後継者の不在で1996年に廃業の危機を迎えましたが、その時、白羽の矢が立ったのが現社長・三ツ倉和雄さんでした。異業種の経験しかなかった三ツ倉さんは躊躇しましたが、「大館から曲げわっぱを無くしたくない」との思いから、大館工芸社の経営を引き継ぐことを決めました。
「良いものを作り続ける」という先代の堺谷氏のモットーに加え、「曲げわっぱを次の世代に受け継いでいくこと」をコンセプトに、若い職人の育成や小学校への出前講座、曲げわっぱの森づくりにも取り組んでいます。
一番人気は「小判弁当」です。
柔らかい曲線と繊細な木目が中身を映えさせるだけでなく、木の持つ調湿作用で時間が経っても美味しさを保ちます。ウレタン塗装加工をしているため、油物を入れてもシミが付きにくく、洗剤で洗うことができて取り扱いが楽なのも魅力です。
塗装したお弁当箱と無塗装のもので、時間の経過によるご飯の水分量を比較したところ、ほとんど差がないことも実証されています。(秋田県立大学木材高度加工研究所による検証実験)
さらに、「曲げわっぱを子どもたちにも使って欲しい」という思いから、大・中・小サイズのお弁当箱を作り、セットで「親子弁当」として販売。2019年の東京インターナショナルギフト・ショーで「ライフデザイン賞」を受賞しました。
ショールームには、大館工芸社で扱っている曲げわっぱ製品がたくさん並んでいます。
カップをはじめ、さまざまな製品が「グッドデザイン賞」を受賞しており、曲げわっぱの美しさを最大限に引き出すデザインが注目を集めています。小判弁当を含むお弁当箱数点は、10年以上継続的に提供しお客様に広く支持されている商品やサービスに贈られる「ロングライフデザイン賞」を受賞しています。
「曲げわっぱを見たい」と、ショールームを訪れる観光客が多く、関西や九州から来る人もいます。
2018年、ショールームの裏手に体験工房「ハンディクラフトスタジオ」をオープンしました。
曲げわっぱの製作体験ができるほか、大館曲げわっぱの歴史やお手入れ方法など、伝統的工芸品である大館曲げわっぱの魅力に触れることができます。
製作指導をしているのは、伝統工芸士の佐々木悌治さんです。
佐々木さんは黄綬褒章受章、現代の名工(厚生労働大臣賞)受賞の経歴を持つ“大館曲げわっぱ界のレジェンド”。
「大館曲げわっぱ体験工房」(大館市運営)で10年間指導をしてきましたが、2019年に体験工房が役目を終えたあと、大館工芸社の顧問に就任し、製作体験や職人への指導を行なっています。
製造工場では、25名の社員が日々曲げわっぱ作りに励んでいます。
そのうち伝統工芸士は5人。責任者である製造部長・三浦義幸さんも、伝統工芸士の一人です。
三浦さんは、「先人が培った技術にプラスアルファして、今の時代に合った製品を作ってお客様に喜んでいただくこと」を大事にして製品を作っています。また、これまで熟練の職人しかできなかった作業を、若い職人もできるようにするなど製造過程にも工夫を取り入れ、「伝統的工芸品である大館曲げわっぱをこの先も残していく」という社のモットーを製造の現場から支えています。
お弁当箱の輸出販売を手がける「Bento & co」と提携し、曲げわっぱのお弁当箱をフランスで販売しています。
小判弁当や二ツ重丸弁当など、曲げわっぱ製品はフランスでも大人気!
ほかにも、ジブリやユニクロ、JRAとコラボして、多彩な商品を作り出しています。
曲げわっぱの最大の魅力は、お手入れをして長く使い続けられるところです。
2020年、30年前のお弁当箱を修復し、蘇らせたニュースが話題を呼びました。
「思い入れのあるお弁当箱なので、まだ使い続けたい」というお客様の要望に応え、内側のタイシャ風の塗りと外側のコーティング加工を行って、長年使い込まれた良さをそのままに、今後も使い続けられるよう修復しました。丁寧にお手入れをして、一生使い続けられる道具…それが曲げわっぱ製品です。
曲げわっぱの材料は、樹齢150年以上の秋田杉です。
古くから杉の産地として有名な大館ですが、最近は山に手をかける人が少なくなりつつあります。
「曲げわっぱを残していくためには、材料となる杉が必要」と考えた三ツ倉さんは、大館市農林課の協力を得て市有林に秋田杉を植樹しました。市内の小学生と一緒に毎年手入れを行い、未来の曲げわっぱの木を育てています。
職人の育成にも力を入れており、令和元年度「秋田県みらいの工芸士」に5人の若手社員が選ばれました。
「伝統工芸士になるためには12年間コツコツ努力することが必要で、とても大変です。伝統工芸士を目指す過程でこのような資格をもらって、夢をつないで成長していってもらえたら嬉しい」と三ツ倉さん。
丸太の買い付けから行う大館工芸社ならではのこだわりは、その一つひとつの商品の品質や美しさに現れています。秋田杉を子どもたちの将来に重ね、植樹や木工教育×食育に取り組む姿に、想像の先をゆくイノベーションを感じました。私たちが手に取るのは、曲げわっぱという名の秋田の未来なのかもしれません。
熱湯につけた秋田杉の材料を絶妙な力加減、タイミングで型に曲げています。この曲げ加工後乾燥します。
乾燥後、木の戻る力で形を崩さない様に支点を作り均等に力を加えられます。
おひつのカンナ掛けです。はみ出ているフチを削ったり、段差になっているところを平らにしています。
小口を切る作業です。曲げわっぱの顔ともいえる側を柔らかみや、美しさを際立たせます。